テレビでみるアカデミー賞では列席者は正装しているが、ここはお国柄を表そうと民族衣装が多くみられる。 授賞式は沢山の部門があり、コアントローさんが部門毎に1位から3位までを紹介するとウオーと大きな歓声が上がり、3冊の本がスクリーンに映し出される。続いてグランプリはと紹介されると2位、3位の本は消えて、グランプリの本だけが大写しになると会場は大変な興奮に包まれる。グランプリの受賞者はステージに上がり、賞状を受け、受賞のお礼を 述べる。中には感極まり、言葉にならなくて、泣き出す人もいる。 紹介が順に進んでいく。「ベスト・パブリシャー(最高の出版社)」と告げられた時に三つの一つに私の本が入った。
私は何故?と思った。 というのは料理本ばかりなのにという思いである。楊枝は料理の添え物でメインではない。そういう思いがあったのでまさかという思いが強い。なにかの間違いでは?と思った。次にコアントローさんが「このグランプリの本は貴重で優秀な本です。」と付け加えてグランプリにしたのは私の本だったので信じられなかった。
檀上でなんとお礼を言おうかと思いつつ、ステージに上がった。そして挨拶した。「このような賞をいただき光栄です。楊枝は殆んど意識されないで使われています。丸い料理用の楊枝で歯を痛めています。歯に使うのは三角形の楊枝です。大切な歯を守る道具なのです。どうぞ正しく使い分けて下さい。この度はありがとうございました」 と話して降りようとすると、あるスェーデンのおばさんが「ミスターツースピック」と私にあだ名をつけた。すると周りから「ミスターツースピック」「ミスターツースピック」と大声で声が掛かり、すっかり人気者になった。
翌朝、朝食にレストランに行くと遠くから 「ミスターツースピック」と大声で声が掛かる。照れくさい限りである。 日本からは他に6人ほどがグランプリを獲得した。翌日の夜、祝宴が中華料理の丸いテーブルで開催された。各国ごとに円卓が用意されている。日本人の席はどこかと探すが日本人は一人もいない。折角の祝宴に出でないで帰ったようである。仕方なく後方のテーブルに座っているとコアントローさんがやってきて、あなたの席はとってあると言って私の腕をつかんで引っ張っていく。一番前の席でコアントローさんと奥様の間である。コアントローさんの隣はフランスの写真家、その横はベルギーの作家、中国人の有名な書家などその道の一流の方々ばかりである。この席は私には荷が重すぎるし気を遣うのでと話すとコアントローさんは表彰式でも話した通り、この本は貴重で優秀なのであなたはここに座る値打ちがある。聖書にもあるだろう。「婚宴に招待されたら、上席に着いてはならない。あなたよりも身分の高い人が招かれており、あなたやその人を招いた人が来て、『この方に席を譲って下さい』と言うかもしれない。そのとき、あなたは恥をかいて末席に着くことになる。招待を受けたら、むしろ末席に行って座りなさい。そうすると、あなたを招いた人が来て、『さあ、もっと上席に進んで下さい』と言うだろう。そのときは、同席の人みんなの前で面目を施すことになる。だれでも高ぶるものは低くされ、へりくだる者は高められる」(ルカによる福音書14章7節~11節)とこの話をされた。