「これで上手くいけるでしょう。」 それから月に二度のペースで二年半にわたり、大津から通って下さり、技術指導を受けた。その中で印象的なのは問題にぶちあたると必ず現場に戻られたことである。例えば刃物の場合は、刃物メーカーに後藤工場長を連れて、足を運ばれて問題点を洗い出され、解決の方法を見つけられた。 月に二度の費用負担は零細企業には負担になるでしょうと一度は大学負担で後の一度だけの負担にして下さったので長期間でも続けられたと感謝している。
同年、大学卒業後に他業種へ3年間勤務していた甥の行信が入社し、関東担当の営業をしていた。その頃、舌掃除(タンクリーナー)を作りたいと考えていたが友人がよい素材を紹介してくれた。ゴム系のエラストマー樹脂である。 そこで学会で親しくしていただいていた青野正雄先生(元九州大学歯学部帳)に「舌掃除は必要ですか」と質問した。すると先生は「舌を清潔に保つことは必要です。しかし安全なものがないのです」というお返事。では「安全な舌掃除を作ればいいのですね」と 念を押すと「そうです。安全なものを作って下さい。」 元来 つまようじのメーカーで天然素材を扱ってきているので、化学素材にはまず安全性を確しかめたいという意識が反射的に働く。こういう化学素材のメーカーは規模が大きく製品安全データシート(MSDS)を発行している。 そこで東京のデザイン会社に成型会社と仲介の友人である西浜賢二さんと関東の営業担当と共に集まり、月に一度丸二年間、協議を繰り返した後に完成した。
平成12年。 折よく龍谷大学の研究室に入居していたので、タンクリーナーの安全性を確認できますかと聞くと物質化学部の中沖教授の紹介を受けてお願いした。先生は口のPHと同じ溶液に長期間保存して、異物の溶出があるかどうかを調べて下さり、結果、大変安全な素材ですとお墨付きを下さったので今もそれを活用させていただいている。
平成13年 前年につまようじ資料室にお越し下さった西日本医療短大の日高三郎教授が 三角ようじを使うことで歯間部の血流が増加することを計測しましょうかと提案下さった。スウェーデンにはこの種の論文は沢山あるが、日本にはない。是非お願いしますと依頼した。すると先生は歯間ブラシ、輸入品のゴム製歯間刺激具、三角ようじの三種類の道具で比較してみましょうということになった。その結果を歯科衛生士の香月先生と日本人間工学会の第17回研究発表大会で発表して下さいということになり、香月先生はその比較結果を学術的に、私は三角ようじの北欧及び他のヨーロッパへの広がり状況と歯の予防意識の高まりを説明した。 座長は鶴見大学の新井喬教授で発表後の質問の最後に「最近の学会発表は最先端の技術などが多いが、今回のように日常生活に密着した地味な研究がとても大切で、大変有意義な発表だった」と総括して下さったのが嬉しかった。