その時 中村歯科医はこんなによいものが出来たのだから、是非 歯科人間工学会で発表 するようにとのこと。戸惑っていると貴方にはよい友人がいるではないかと言われた。 近くの大林ビルで歯科医院を開業されている坂下嘉信先生のことである。坂下先生に相談するとやりましょう。私も応援しますとのこと。学会に必要な資料も準備して下さったので初めての学会発表も無事終えた。歯間ブラシは歯と歯の間の大きさに合わせて使うため、サイズが色々ある。そこでSを標準として、SSを中細、SSSを極細と決めた。歯と歯の間の歯ぐきが盛り上がっている部分を歯間乳頭と呼んでいる。これが加齢と共に下がる。その上に歯と歯がくっついているところを隣接面と呼ばれる。この隣接面と歯間乳頭上部との距離が加齢とともに変化する。この距離を基準にサイズを決定した。 後になって歯ブラシ工業会でサイズの統一が計られたがなにしろ周りにはまだ歯間ブラシがない時なので、基準が必要と考えての設定である。 この設定理由を平成2年に第5回歯科人間工学会の発表会(愛知学院大学歯学部)は発表した。
更に人間工学会は使い易さを追求する学問であるから、ハンドルの長さと太さの根拠を説明した。奥歯(臼歯)に届き、使い易いハンドルの長さは55ミリ、太さは三本指でつまむのでその接点の3.4ミリに設定した。だから一度使って下さればその使い易さに納得いただける。発売後30年以上経過したが根強いファンがいて下さる。 この人間工学的な発想でものづくりをすることの大切さを会員の先生方の熱心な指導で教えられると共に坂下先生の懇切丁寧な指導がなければ、素人の私が大それたことが出来る 訳がないし、よい先生方に恵まれていると痛感した。 包装は狭い歯間部を清掃する医療用品の一つだからと考えて、一本ずつを滅菌紙で包装して販売した。
すると次第に広がっていった。もっと狭い歯間部用も欲しいと言われ、4S(超極細)を加えた。更に隙間の広い方ようにL(極太)、LL(超極太)も加えて販売し、他のサイズに比べて数量は少ないが高齢者に受け入れられている。 この年(平成2年)に後藤幸雄が技術担当として入社した。 同じ年に「つまようじ資料室」を開設し、毎週土曜日の一般公開を始めた。地場産業としての「つまようじ」の歴史と文化を伝える必要があると考えていた。長年同じ所で 仕事をさせていただいたのでなんらかの形で地元に貢献したかった。 この開設に当たり、府の職員で当時貿易館におられた水戸部洋一氏に相談して、その展示 方法をはじめとして全ての面で指導を受けた。 なにしろ人様に工場を見てもらうことがなかったので整頓と清掃から指摘を受けた。 建物の壁面に段ボールが立てかけてあるのを、平積みにする。それを取ると沢山の埃が出てくる。仕事を終えて、帰宅途中に寄って下さり、来られるとすぐにほうきと雑巾を手に 掃除を始められた。忘れられないお言葉の一つに「古いと汚いは別」というのがある。